全体的な感想
日本の大学を卒業した後、ハーバード大学デザイン大学院に留学した筆者の日本での不動産投資の成功を元にした不動産投資の手法が紹介されている本です。「ハーバード式」と大きく書かれているので言いますが、日本での不動産投資に活用できる内容です。
筆者がデザイン大学院で学んだ授業の内容なども紹介されているのが特徴的でした。ここが他の不動産投資本にはなく面白い部分でした。
筆者の取っている手法・おすすめ手法を簡単に言うと「土地から新築RC」です。
しかし私がこの本で最も為になった感じたのは、「土地から新築RC」という手法そのものではなく、この手法に至るまでに筆者が繰り返し行った「BOE分析」の話です。
※「BOE分析」については後述します。
筆者は不動産投資を志した当初この「BOE分析」をあらゆる物件に対して繰り返し繰り返し行ったので、不動産投資家としてのレベルが上がり、良い物件・買ってよい物件が見極められるようになれました。そしてついには「土地から新築RC」でセミプロレベルとなり利益を出せるようになっています。
こういう「BOE分析」を繰り返し繰り返し行ったので、不動産投資家としてのレベルが上がったっていう話、私は大好きです。やっぱり、成功の影には大きな努力や積み重ねがあるわけで、知識・経験を積むというのは大事ですね。
出版年月日は 2021/2/16 の本です
不動産投資の本を読む際に「出版年月日」がいつなのかは意識すべき重要な項目の1つです。
新しいものが良い・古いものは悪い という事ではなく、本がかかれた年によって、物件の価格(利回り感)や銀行の融資姿勢が異なるので、それを踏まえた上で読みましょう という事です。
また、ごく最近出版された本であったとしても、筆者が本を出版すると決めてから実際に出版されるまでは速くても半年程度はかかりますので(よっぽど出版に慣れた筆者&編集者でなければ)、若干市況感や融資情勢は今と違うという事は意識しながら読まないといけません。
筆者が紹介する「BOE分析」とは
BOEっていうのはBack Of Envelope の頭文字で、『封筒の裏』という意味です。
昔から不動産投資家は売り物件を発見したら、手持ちの封筒の裏にでもさっと数字を書き込んで分析して、その物件が投資するに値するかどうか瞬時に判断してきた。
という話からBack Of Envelope(封筒の裏)と言われています。
この分析方法を繰り返しやってれば、わざわざパソコンを開いたり、ノートに書いたりせずとも、その辺にある紙の切れ端で分析できるよ。なんやったら頭の中でもできるよ。という分析方法です。
大事なのは、この分析を繰り返しやる事です。
繰り返しやる事で、どんどん分析速度と精度があがってゆきます。
「BOE分析」具体例
BOE分析の細かい方法は本を読んでいただくとして、
ここでは 今(2023年4月現在) 楽待や健美屋などの収益物件ポータルサイト上がっている物件で、BOE分析をやってみることでこの分析方法を紹介します。
今回は私もやった事のある「建売の新築木造アパート」でBOE分析をやってみます。
※ちなみに筆者は「建売の新築木造アパート」は、あんまりおススメではないと言っています。
今、関西の建売の新築木造アパートの利回り感は(簡単に見つかる物件でいうと)
そこそこイケてる駅で、駅から徒歩10分以内くらいで、表面利回り6.5%くらいって感じです。
①満室想定家賃収入を計算する&検証する
物件価格は仮に1億円とします。
表面利回りが6.5%なので 満室時家賃年収(GPI)は650万円です。
ひと月だと約54万円です。
同じ間取りが8室の物件だとすると、1室の賃料を約6.8万円と想定している訳です。
この1室 6.8万円/月が本当にこの値段で入居がつくのかを、スーモやアットホームやホームズなどで近隣類似物件の募集条件を確認し、この賃料で良いのか検証します。
この賃料でOKだと判断したら、満室時家賃年収は650万円に決定します。
※この賃料では厳しい・相場より高いと判断したら、その賃料での満室時家賃年収に計算しなおします。仮に賃料6.5万円くらいかなと思ったら、6.5万円×8室×12カ月=624万円という風に計算します。
②空室率を計算する
今回は、そこそこの場所に立つ新築木造アパートなので、空室率は5%で良いでしょう。
空室率5%=650万円の5%=32.5万円
③その他運営経費を計算する
アパート経営には様々な経費がかかります。客付けの仲介手数料や、管理料、建物管理メンテナンス費、共用部の水道光熱費、火災保険料、地震保険料、固定資産税&都市計画税などです。
木造アパートの場合、これら運営経費(OPEX)はざっくり概算で合計約15%と見積もってよいでしょう。
(※木造アパートのこれら経費が約15%と計算・判断できるのも知識や経験です。)
運営諸経費15%=650万円の15%=97.5万円
④実質収入(NOI)を計算する
①の満室想定家賃収入から、②の空室率と③の運営諸経費を引いたものが④実質収入(NOI)です。
650-32.5-97.5=520
実質収入(NOI)は520万円です。
この実質収入(NOI)は、物件を全額現金で購入した場合の収入と言い換えることもできます。
しかし、全額現金で収益物件を購入できる人なんて、そう滅多には居ませんので、次へ進みます。
⑤銀行への毎月返済額(毎年返済額)を計算する
今、表面利回り6.5%の新築木造アパートの購入を検討できる人なんて、よっぽど低金利で融資をひける人でしょう。金利は年利1.0%の元利均等返済、融資期間は30年としておきます。
そして銀行は今2割の自己資金を求めて来るケースが多いですので、融資金額(借入金額)は8000万円とします。
この融資条件で計算すると、毎月の返済額は257,311円です。年間約309万円です。
※ここの計算は便利な計算サイトなどを使いましょう。
⑥ローン後キャッシュフロー(税引き前キャッシュフロー)を計算する
①~⑤までの数字がそろえば、ローン後キャッシュフロー(CFAF)(税引き前キャッシュフロー)を計算するのは簡単です。
④の実質収入から⑤の銀行返済額を引いたものが⑥ローン後キャッシュフローです。
520万円-309万円=211万円
ローン後キャッシュフローは211万円と計算できました。
⑥-2 そして検証・分析
物件価格の2%のローン後CFが残れば、不動産投資はまずまずの合格とよく言われます。
今回は物件価格1億円に対してローン後CFは211万円なので、2.11%です。一応合格しています。
しかし、自己資金は2000万円と購入時諸経費で約400万円で、合計2400万円使っています。
(※購入時諸経費は、売主業者からの購入のため仲介手数料がかからなかった場合を想定しています。)
最初自己資金2400万円を出して、年間211万円のCFを得る。
自己資金2400万円をCFで回収するのに約11.4年。そして借金8000万円からのスタート。
これが自分にとって良い投資なのか?
この投資をすれば自分の目標の姿に近づけるのか?
などを考えて、投資を行うかどうかが「BOE分析」です。
ですが、次の⑦売却・出口まで考えられると「BOE分析」は完璧です。
⑦売却(出口)も考える
購入前に、売却時期とその時の売却価格も想定できるようになると「BOE分析」は完璧です。
ここについては、本に説明を譲ります。
この本を読むのに向いている人
まだ物件を持っていない、不動産投資初心者にはこの本はおすすめです。 上で紹介した「BOE分析」をいろんな物件で手当てり次第やれば、自分の買いたい物件・買える物件などが見えてきます。
少なくとも、買ってはいけないダメ物件(割高すぎる物件)を買ってしまうという事はなくなるでしょう。
また既に収益物件は保有していてキャッシュフローも得ているけど、将来的には「土地から新築RC」をやってみたい。というこれからセミプロを目指したい人にもおすすめです。筆者が建てた物件の情報が建築費まで詳細に載せてくれていましたので、時代が違うといえど非常に勉強になりました。
という訳で、おすすめしておきます。
【kindle版】
【単行本(紙の本)】